先天性腎疾患の多発性嚢胞腎とは?
多発性嚢胞腎については検索をすれば多数の記事やブログがヒットしますので、基本的な部分を簡単に説明しますね。
詳しくお知りになりたい場合は、ページ内の【 関連リンク 】の項目から他のサイトへ跳べますのでご参考にしてみて下さい。
多発性嚢胞腎とは、腎臓を構成する遺伝子の異常により“腎臓に無数の嚢胞ができていく遺伝性の疾患”です。
あくまでも遺伝性の病気ですので、他の病気が原因で発症するものでは御座いません。
遺伝という事は最低でも親猫のどちらかにこの遺伝子の異常があり、その親猫から生まれた子猫は50%の確立で遺伝してしまいます。(常染色体優性遺伝)
この遺伝子異常を未然に防ぐ方法はありませんので、もし多発性嚢胞腎が発見された場合は避妊・去勢手術を行い繁殖させないことが重要となりますし、親猫が特定出来る場合は親猫の繁殖行為も禁止する事が必要かと思います。
繁殖させない事が、唯一の予防・防衛になるのかと。
繁殖行為については賛否両論、様々なご意見があると思いますのでこちらのサイトでは触れませんが、無知な素人繁殖家や悪徳ブリーダーがいなくなればと強く願います。
関連リンク
・猫の多発性嚢胞腎 - 岩手大学農学部 岩手大学農学部附属動物病院のホームページ
・猫の多発性嚢胞腎(PKD) All About All Aboutの記事
症状と診断・検査
比較的初期の段階で発見された場合は無症状の場合もありますが、現実では調子が悪くなって病院で検査をして発見される事が多いと思われます。
腎臓に嚢胞が増えはじめると腎臓自体に負担がかかりますので徐々に症状が現れ始めますが、日々の生活で世話人(飼い主)が分かる症状は基本的に腎不全の症状と変わりありません。
食欲減少や多飲多尿、体重減少などの症状でしょうか。
症状が進行した場合には腎不全としての臨床症状以外に、『脇腹付近が腫れている』ように見える場合もあります。
嚢胞の数が増えて大きくなってくると腎臓自体が肥大化していき、さらに腎機能が低下していきます。その上、肥大化した腎臓が他の臓器を圧迫してしまいますので腎不全以外の問題も発生する場合があります。
しかし、多発性嚢胞腎は基本的にはゆっくりと進行しますので、腎不全の状態に身体が慣れてしまい症状が表れにくい子もいます。逆に、進行が緩やかという事は、初期で発見された場合には日々の対応や処置により可能な限り進行を遅らせることも出来るかもしれません。
診断自体は超音波検査でわかりますので比較的負担は少なくすみます。初期の場合、レントゲン検査では診断出来ないこともありますので、なるべく超音波検査をお願いしてみて下さい。
通常、慢性腎不全では進行に伴い腎臓が委縮して小さくなりますが、多発性嚢胞腎は嚢胞が増える事で腎臓が肥大化して表面がボコボコしてきます。
触診で分かる段階は病態が進行した場合ですので、出来ればこの段階に来る前に診察・検査をしておきたいですね。
少しでも早く確定診断する方法としては、遺伝子検査があります。
多発性嚢胞腎は、ある特定の品種に発症率が高い遺伝病ですので、臨床症状が現れていない子猫時代に遺伝子検査をする事が最大の対処方法かと思います。
通常、嚢胞の大きさは1mm〜1cm程度で、初期の頃は数も少なく超音波検査だけでは確定診断できない場合もあります。
超音波検査では生後10ヶ月未満の確定診断が難しいため、遺伝子検査により診断します。
また、嚢胞の数が少ない場合、多発性嚢胞腎かどうかの確定診断をする際にも遺伝子検査を実施した方がいいでしょうね。多発性嚢胞腎ではなく、腎嚢胞なのかもしれませんから。
治療と日々のケア
現在の獣医療では、残念ながら多発性嚢胞腎には決定的な治療法は確立されていませんが、
ヒト医療では、2013年の3月に大塚製薬のサムスカ錠:トルバプタン(バソプレシンV2-受容体拮抗剤)という薬品が米国で申請を受理されました。
(2013年8月、追加データが必要とのことで米国での承認は不可という結果。)
また、2013年の12月には欧州EMAが承認申請を受理し、日本国内では承認申請中。
(2014年3月、世界に先駆け日本で承認。)
今後、獣医療で使用されるかどうかは分かりませんが、効果があれば進行を遅らせることは出来るかもしれませんので期待したいところですね。
唯一、獣医療においてネット上で確認出来る情報として、ある薬品が多発性嚢胞腎に有効である可能性が高いという事で試されている方の記事があります。
しかし、本格的な治験段階にも進んでいないようですし、副作用が大きいようなので薬品名は伏せさせていただきますが、仮に有効性が確認されて治験が開始されたとしても、実用段階までには数年は必要でしょう。
なので、基本的には慢性腎不全としての対処になってきますので、治療に関しての詳細はサイドメニューよりご覧下さい。
慢性腎不全としての対処療法以外に腎臓に出来た嚢胞内の水分を抜く事もありますが、抜いても次々と嚢胞が出来ますので対応出来ないのが現状です。
また、多発性嚢胞腎は両側性(両方の腎臓)が多いですが、中には片側性の場合もあります。
その場合は片側の腎臓だけを摘出する方法もあり、摘出前には尿路造影検査によりどちらの腎臓が機能しているかどうかを確かめてから摘出します。
・特定の品種
・尿路造影検査
・サムスカ錠:トルバプタン(バソプレシンV2-受容体拮抗剤)
関連リンク
・大塚製薬 ニュースリリース サムスカ錠:トルバプタン、ADPKDの世界初の治療薬として日本で承認
腎嚢胞と腎周囲偽嚢胞
多発性嚢胞腎は、あくまでも遺伝性により無数の嚢胞が腎臓に出来る病気ですが、早期の発見では嚢胞の数も1〜数個と少ない場合もあります。
その場合、多発性嚢胞腎なのか単純性腎嚢胞なのかで予後や対応が大きく違ってきます。
多発性嚢胞腎が進行性のある疾患であるのに対し、腎嚢胞は無症状であまり問題にならない事も多いです。ただし、多発性でなかったとしても嚢胞が出来た場所や大きさによっては、血尿や水腎症の原因になったり腎機能障害を生じることもあります。
嚢胞が増えず無症状であっても、定期的な検査で経過観察だけはしておきたいですね。
多発性嚢胞腎が進行した場合、『脇腹付近が腫れている』ように見えることもあると書きましたが、腎臓が腫れるのは多発性嚢胞腎だけでなく水腎症などでも腫れてきます。
多発性嚢胞腎や水腎症は腎臓自体が肥大しますが、腎臓の周りが水分により膨れて腎臓が肥大したように見える病気があります。
腎臓を包んでいる皮膜と腎臓本体の間に、多量の尿や浸出液などの液体が溜まり腫れているように見えます。
実際には腎臓が腫れているのはなく、逆に多量の液体により腎臓が圧迫された状態になり腎臓にダメージを与えてしまっています。
これを腎周囲偽嚢胞といいます。
原因が分からない場合も多いですが、超音波検査により状況を把握することで適切な対応が出来るかもしれませんよね。